
犬崎家 -春夏秋冬-
犬崎家当主、犬崎右兵衛は死の淵に差し掛かっていた。 それは本人が一番分かっていたが、対外的には自分はまだまだ終わらないと虚勢を張っていた。 それよりも一代で財を成した右兵衛の遺産がどうなるのかが皆の考える所だった。 それも右兵衛はよくよく分かっていた。 3人の娘が代わり代わりやってくるのも決して自分を心配してのことではない。 娘たちが帰るたびに顧問弁護士に遺産の話をしているのが聞こえる。 分かってはいるがなかなか遺書の筆が進まないのである。 そんなある夜三人の娘の元に手紙が届く。顧問弁護士からだ。 「お父上、犬崎右兵衛様がお亡くなりになりました。お悔み申し上げます。 右兵衛様のご遺志によりまずは御息女の春子様、夏子様、秋子様はご実家に集合して頂きたくお願いいたします。」 三姉妹は疑問を持ちながらも遺産の話があるかもしれないと思い、 屋敷へと向かった。